『パルプ・フィクションから見るアメリカ的スーツとループタイ』

『パルプ・フィクションから見るアメリカ的スーツとループタイ』

クエンティン・タランティーノの名作『パルプ・フィクション』から観察するレトロファッション、

今回のテーマは「アメリカンスーツとループタイ」です。

前回の『シングルマン』もアメリカを舞台にしたアメリカ映画でしたが、前回は主人公がイギリス系ということで、スーツのフィッテングはタイト目でした。日本人の感覚からすると、ワンサイズ小さいような着心地(イギリスのサヴィルロウで採寸すると結構窮屈らしい)がイギリスっぽい。

 

反対にアメリカンスーツはダボってます。ちょっとオーバーサイズ気味。日本人的感覚からすると、タクシー運転手の制服といったところでしょうか。ボックス型シルエットをしていて、ストレートハンギングと呼んだりします。寸胴ってことですね。

シングルマンとパルプ・フィクションのダンスシーン比較

ジャケットの袖口に注目です。イギリス系スーツはタイトなので、シャツがチラ見えしてます。

 

監督のタランティーノって誰?

さて、レトロファッションの話をする前に映画について触れていきたいと思います。冒頭でクエンティン・タランティーノの名作と説明しましたが「そもそもタランティーノって誰?」という方、多いのでしょうか。 日本で有名なのは(栗山千明も出演した)『キル・ビル』かと思います。あれの監督がクエンティン・タランティーノ。 そして今回の『パルプ・フィクション』は長編2作目です。 なんと二作目にして、アカデミー賞7部門ノミネートと脚本賞受賞、さらにその他多数のノミネートと受賞をしており、新進気鋭の新人監督だったことが分かります。

 

タランティーノの特徴

そんな監督の特徴は、なんといっても無駄話。意味があるのか無いのか分からない、どうでもいいような話を、名だたる俳優たちに真面目に演技させます。 それが結構クールなんですよね。 今回の『パルプ・フィクション』では特に、ジョン・トラボルタとサミュエル・ジャクソンやユマ・サーマンとの会話劇が見所です。(その話は詳しく後述してます)

水曜どうでしょう的な?

無駄話を楽しむといえば、日本では「水曜どうでしょう」という北海道のテレビ番組がありました。旅番組なんだけど観光地やローカルフードにフォーカスせず、基本的に出演者どうしの会話を楽しむような番組でしたね。 あの感じが、ハリウッド映画内でヴァイオレンスなアクションも挟みながら進展すると思って下さい。 そういう特徴の映画をよく撮るのがタランティーノです。

 

 

無意味に見えるけど意味深なストーリー

さて、監督についてお話しました。次にストーリーにも触れていきましょう。っと言いましても、パルプ・フィクションというタイトルの意味は「パルプ雑誌」つまり、安い話。くだらない話という意味があります。 またパルプ雑誌は20世紀初頭から50年代にかけて流行ったものですので、その時代へのリスペクトも含んでいるかもしれません。 劇中でも「エルビスっぽい店」という台詞や、マリリンモンローに扮した店員が登場するなど、50年代を意識した描写がいくつかあります。

さて、まあとにかく「くだらなさ」を魅力にしているので、ストーリーも大筋はくだらないものです。 ざっくり言うと、とあるマフィア二人組みの話を中心に描かれたオムニバス形式のストーリーで、最後はある意味ハッピーエンド。

 

これでいいわ!いい気分!

 

 

Let’s パルプ・フィクション、ファッション観察!

それではストーリーを追いながら、ファッション観察をしていきましょう。今回は沢山出てくる登場人物のうちビンセント(ジョン・トラボルタ)とジュールス(サミュ・エル・ジャクソン)そしてミア(ユマ・サーマン)の三人に絞って見ていきたいと思います。

 

さっそく会話劇から始まります。内容は“葉っぱバー”について。主人公の一人ヴィンセントはオランダのアムステルダム帰りで、その土産話をしています。二人が着ている服は、どちらも似たようなブラックスーツですが、このシーンではヴィンセントのピアスが目を引きますね。 長髪でスーツを着たおっさんがピアスをしているなんて、日本で似合う人いるんでしょうか。なかなかチャレンジングなファッションです。

 

 

ちなみに葉っぱバーとは、マリファナの購入と喫煙ができる場所です。(事実上の合法)コーヒーショップと呼ばれることも多く、現在でもアムステルダムには250店弱の店舗があると言われています。うーん、多いですね。

出典:wikipedia

ブラックスーツにも個性

さて似たようなブラックスーツの二人ですが、実はジュールス(黒人の方)が面白いシャツを着ています。このエレベーターをシーン、二人の襟元に注目してください。 ジュールスの方がシュッと締まってますね。 これはタブカラーという、第一ボタンが前後に二つ付いた様なシャツを着ているからです。 カラーとは色ではなく襟のことで、タブカラーはタブのついた襟という意味です。 これにより、ネクタイに立体感を演出します。 また同じような目的で使用される小物として、カラーピンというものがあり、襟に突き刺したり(ピン)挟んだりして(クリップ)使います。(英語圏の記事に、ジュールズの説教くさい窮屈なキャラクターの表現として、カラーピンを使ったという表記がありました。ですが僕のパソコンではピンを確認できず・・・)

どちらにしても、仕事着にタブカラーやカラーピンをチョイスするセンスは脱帽です。 自然に着こなせたならば、かなりオシャレに見えることでしょう。

 

 

今度はデート着になったヴィンセントに注目です。


なんと上襟がレザーになったジャケットにジーンズ、さらに石のついたループタイをつけています。アメリカン・カウボーイといった感じでしょうか。これは実際、劇中で「カウボーイ」と呼ばれていることからも分かるように、完全にウェスタンを意識したファッションです。特にループタイは公式な衣装として採用してる州がアメリカ西部にはあります。なんと役所の職員や州知事が普通に着用することもあるみたいですよ。

 

ループタイの使われ方

出典:wikipedia

 

もう少しループタイについて、掘り下げましょう。起源は他のスーツ小物よりも浅く、1940年代後半と言われています。インディアン・ジュエリー(Native American jewelry)のひとつとして誕生しましたが、そもそもインディアン・ジュエリーの起源が12000年前のアラスカということなので、それと比べても相当最近の事だと分かります。

 

日本では70年代、オイルショックから提唱された「省エネルック」の流行で、ループタイが使われました。 半袖開襟のシャツにネクタイは合いませんから、ループタイが使われたわけです。 このファッションは東南アジアなど熱帯国のスタイルを取り込む形で、大平内閣が提唱したそうですから、やっぱり発祥がアメリカ西部と言い、熱い時のビジネススタイルとしてループタイを使うのが本質的という事でしょう。

 

婚約指輪の使われ方

さてユマ・サーマン演じるミアとデートするヴィンセント。ミアはヴィンセントのボスの嫁さんなので、結婚指輪を付けています。(デートしてる理由は映画をチェック)よく見ると、キラキラした指輪と重ね着けしています。このキラキラしているのはダイヤモンドで、これは婚約指輪と結婚指輪を同時に着けているという事です。 これがオシャレな婚約指輪の使い方ですね。 日本人的な感覚でいうと「よそ行きの格好」で、着けるものです。

プロポーズでパカッと登場させた後、タンスの肥やしにしてしまうのはナンセンスですよ。 そしてキラキラさせる事にも意味があるでしょう。 それは旦那の経済力や愛情の大きさを対外的にアピールするものでもあるからです。芸能人の婚約会見では、大粒のダイヤがクローズアップされることも多いですね。まさにそういうことです。 これまたブリンブリンの婚約指輪をPTAの会議に着けて行っては、ナンセンスかもしれません。 身丈に合った婚約指輪を、相応しいシーンで使いこなせると素晴らしいですね。

 

 

伝説のツイストシーンになるか!?

さて、以前『シングルマン』のレトロファッション観察記でこんなお話をしました。

ツイストほどスーツに合うレトロなダンスはないと思っています。同じスーツの似合うダンスでも、昔の社交ダンスのようにクラシック過ぎず、最近のポッピンやロッキンほどトレンディではない。 最高にレトロを感じるのがツイストです。 他の映画では『パルプ・フィクション』で、ジョン・トラボルタとユマ・サーマンがツイストしてます。ツイストが気になりましたら、そちらもお勧めします。

 

という訳で、そのツイストシーンがここで登場します。シングルマンの時に62年のヒット曲『グリーンオニオン』が流れたのに対し、パルプ・フィクションでは64年、チャック・ベリーの『You Never Can Tell』が流れています。  チャック・ベリーはその数年前に逮捕服役していますから、出所直後のアーティストの曲を使うあたり、この映画にピッタリな選曲なのかなと思います。といってもチャック・ベリーは、ロックンロールの創始者の一人で「ロック界の伝説」とされていますから、普通に名曲を使っただけかもしれません。

さて、肝心のダンスシーンは格好良すぎて、何も語れません。実際に映画を見ることをおススメします。同じツイストですが、シングルマンの時とはまた違った良さが感じられますよ。

 

そしてこの後二人は家に帰り・・・とんでもないドタバタ劇が待っています。(これまた映画をチェックしてね)

 

 

アメリカンVSブリティッシュ スーツ比較

最後に、この記事は「アメリカン・スーツを観察する」のがメインテーマでした。ちょうどいいことに劇中にはアメリカン・スーツとブリティッシュ・スーツの上手い対比があります。 映画の終盤で登場する「掃除屋のミスターウルフ」はイギリス系とされていて、その着こなしは凄くイギリスっぽいんです。

 

 

冒頭で「アメリカはダボっていて、イギリスは窮屈」とざっくり説明しました。ウルフのスーツを見てみましょう。広いピークドラペルにダブルの合わせ、ポインテッドのボウタイ、ダブルカフのシャツは袖がガッツリ露出していてカフリンクスもしっかり見えています。 対比しやすいのは腰まわりの絞り具合です。 アメリカ風が寸胴なのに対して、ウエストを絞り胸板を強調するのがイギリス風になります。

 

 

おそらく話し方も相まって、かなり厳格な印象になっているのがミスターウルフです。残念ながら、英語のイントネーションは僕には分かりませんので、そのあたりが分かると一層楽しめるかと思います。

 

 

さてここからは番外編

まずお酒

パルプ・フィクションに登場するスコッチウイスキー「McCLEARY」、これを我々が飲むことは絶対にできません。高価すぎるからでも、毒性が発覚して処分された訳でもなく、監督が考えた架空のウイスキーだからです。 他にも煙草の銘柄など色々で独自のブランドが登場します。 そういった点もタランティーノ作品の見所でしょう。

ちなみに、「シングルマン」に登場したウイスキーもスコッチで、あっちは蒸留所が閉鎖されてプレミアが付いた逸品「ノース・ポート」でした。

メンズジュエリーも見逃せない

ジュールズの右手小指の指輪と左腕につけたブレスレットは、おそらくセットなのかと思います。デザインはよく見えませんが、ゴールドのブリンブリンなブレスレットは使いこなすのが難しそう。黒人だからこそなせる技かも知れません。僕たちにとっては、着ける場所のバランスが参考になりますね。 右の小指と左の手首です。

ウルフの指輪はシグネットなのか?

シングルマンの主人公がシグネットリングを着けていました。 同じイギリス系のウルフも同じ小指に指輪を着けてます。ということは、これまた同じシグネットリングか? と思いましたが実際は、ドでかいダイヤの入った金の指輪でした。 ただ小指に着ける文化についてはスーツとの関係性も深そうなので、いずれ記事にしてご報告しましょう。

 

最後に

意外と意味深なストーリーの一片をご紹介して終わりにしましょう。

主人公のひとりジュールズは、至近距離から撃たれた弾丸が偶然すべて外れたことを「神の業」と信じ、信仰に目覚めます。そして相方のヴィンセントは笑い飛ばすのですが、最後に意外な結末が待っています。 時系列が前後するので、気付きにくいですが「あの時ヴィンセントも足を洗っておけば・・・」という展開ですね。  考えすぎとも言えなくはない、憎い演出だと思います。 意味深そうで、無意味なのかもしれません。

 

さて、「パルプ・フィクションから見るアメリカ的スーツ」という主題で、ファッション観察をしてまいりました。いかがだったでしょうか。 思いのほか長くなってしまい、拡大版と称した「シングルマン」よりも拡大してしまった気が致します。 観察をしました僕としては、来年の夏はループタイを推していこうかなと思うほどに、ループタイを再評価した次第です。 また皆さんには、アメリカ風とイギリス風のスーツの違いを是非、知っていただいて今後のファッションに役立てて頂ければ幸いです。 どうぞ次回もご期待下さい。